フロアの奥へ行くと、小会議室のドアは開いていて、窓の外を眺める彼の姿が見えた。

足音に気づいた彼がこちらを見て、私ににっこり微笑みかける。


「やあ」

「やあ」


どういうわけか照れくさくて、なんだかちょっとへんな感じ……。


「“先生”のほうが早かったんですね」

「ひょっとして、あのおばちゃん……えーと、女性の職員に何か言われた?」

「べーつーにぃー、なーにーもぉー。あの人でしょ?噂話が好きでお喋り好きな人」

「そっ。暇で仕方がないんだよ、きっと」


今日の彼はスリーピースのスーツで、ネクタイは私がプレゼントしたやつだ。

カフスボタンも私が以前に贈ったもの。

今朝、支度をしながら“ここ一番にはこのネクタイ”と言って笑った寛行さん。

スリーピースって、着る人によっては残念な印象になっちゃうお洋服だけど――

長身で細身の彼にはよく似合う。

美しいシルエットが際立って上品で。

窓辺に佇むその姿に“素敵だなぁ”と思わず惚れ直してしまうほど。

もちろん、おうちでごろごろしているときの“のほほん”な彼も大好きだけど。