お父さんは、寛行さんの言葉に真剣に耳を傾けてくれた。
そして、心づもりはあっただろうに、それでもやっぱり――
「いや、その……なんだね……なんというか……」
いざとなると、しどろもどろになりながら――
「あれだね、“お嬢さんを下さい”なんて台詞は言わないものなんだなぁ、と……」
お父さんは“参ったなぁ”と私たちに決まり悪そうに微笑んだ。
「もぉ~、務さんったら。自分だってそんな台詞言わなかったじゃな~い」
「そう、だったかな……うむ……」
「そうですぅ~」
「まあまあ……えーと、なんだな、寛行君の話はよくわかりました。
ご家族の皆さんが、詩織のことを快く迎えて下さるようで安心しました、本当に。
まあ、帰ってきてからの本人の話しぶりを見て大丈夫だと思ってはいましたが。
我々のほうこそ、詩織のことをよろしくお願いします。
なにぶん社会人経験がないので世間知らずな面も多かろうと思いますが……。
寛行君。どうか、この子を……詩織のことをよろしく頼みます」
そうして、お父さんは寛行さんに丁寧に深々と頭を下げた。
隣りでお父さんを見守っていたお母さんも一緒になって頭を下げた。