さわやかに晴れた秋晴れの下、私は薄いピンクの小薔薇を小脇に抱えて歩いた。

背負ったリュックの中にあるのは、雑巾、軍手、草削り、お線香、ライター、それに蝋燭。


目的地にはすでに先客がおり、雑巾で丁寧に墓石を拭いている。


「あっ!」


私の声に手をとめ、白髪の男性が振り返る。


「あ、こんにちは」


「今年も来て下さったんですね、海東、さん。ありがとうございます。

あ、私も手伝います」


10時を少し回ったばかりだというのに、海東の薄くなった生え際にはうっすらと汗がにじんでいる。


“海東さん”

海東の希望で、先生をつけるのをやめて2年がたつが、いまだに慣れない。


「私、バケツの水を替えてきますね」


黒く薄汚れた水が、海東の仕事の量を物語っている。


お願いします、と海東は私に微笑んだ。