亮雅のつく長いため息が、真珠のようにいくつも床に転がっては消えていく。

彼はもどしたスツールに再び腰をおろすと、目を閉じて顎に手をやった。


どんな言葉がこの静寂を破るのか。

私ははやる心を必死で抑えた。


「夏夜」


それは、私の望んだ言葉のイントネーション。けれどその後に続いたのは。


「いいか、よく聴け。連中は二度とお前のところに現れない。

だから、夏夜も、もう二度とここへは来るな。絶対にだ」


望んでいたものとは正反対の内容だった。

亮雅はそれだけ言うと、立ち上がって出口へと向かう。

まるで最初から私など存在していないように、するりと横を通り抜け。

私の体に、彼の白衣がふわりと触れるだけの感触を残して去っていく。


「待って、亮雅!!」


彼の背中に向かって思わず呼びかけた。

真実を語ってほしいためなのか。あるいはたんに私の前から消えてほしくなかったのか。

扉の前で、彼がぴたりと止まった。

白衣の腰辺りに何本ものしわが寄っている。