くじけそうになる自分に、心の中で必死にエールを送る。


「どうして、そんなことを?くびにしなくても別れられると思うのですが」


「別れても付きまとわれるのが嫌だったからな」


亮雅の顔に些細な変化でもおきないかと期待したが、彼の顔は人形のように冷たい。


「ならどうしてマンションを貸してくれたんです?

別れるなら追い出すべきでは?」


「窮鼠猫をかむってことわざがあるからな。そこまでしたら刃物で刺されるかもしれん」


廊下の暗さとは対照的に、明かりをつけたカルテ庫の中は深夜のコンビニのように明るい。

けれど、どんな照明も、心の中までは照らしてくれなくて。



・・本当に、それが亮雅の本音なの?



亮雅の考えは、まるで読めない。


「昨日の夜、何があったか教えてくれませんか?」


「何のことかわからないな」


「昨夜私が二人組みの男に拉致された後の話です。

私はほとんど覚えてません。けれど、里佳子の話ではあなたがマンションまで連れ帰ってくれたということです」