永井の大声が響いたせいだろう。

彼の背後のドアが開き、中から男の人が顔をのぞかせた。


「どうかしたのか?」


彼の上司なのだろうか。永井はひどく腰を折って、その男に頭を下げた。


「い、いえ。なんでもありません。もう終わりましたので、仕事に戻ります」


その男が部屋へ引っ込んだとたん、彼は私をさげすむように一瞥した。


「で?君の空想癖はよくわかったけど、なんでそんなこと突然僕に言いにきたんだい?」


余裕なふりをして見せてはいるが、どうやら私が永井を疑った理由を知りたいらしい。


「いかにも、って感じのあなたのお友達が、病院に来てたわよ。

私もあの人たちを知ってるの。2度ほど声をかけられてね」


餞別代りに教えてやると、私は彼に背を向けて先の見えない廊下をゆっくりと歩き出した。

カツン、カツンというヒールの音が、私を追ってくる。


「証拠もないのに、警察に言ったって無駄だ!」


負け犬の遠吠えかと思うような醜い声が私の鼓膜に届いたけれど、

私はあごをあげて、しっかりと前を見据えた。


今のは、前哨戦。本当の戦いは、これから始まるのだ。