部屋の人間が向ける不審そうな目を避けるように、永井は私を廊下へと押し出す。
「どうしたんだい?急に」
後ろ手で扉を閉めると、暗く長い廊下は隔離された空間のように静かだ。
「昨日のお礼を言いにきたんだけど。邪魔だった?」
「いや。そんなことないけど、今は仕事中だから」
永井は私の目を見ようとしない。
証拠など必要なかった。彼が冷静さを失っているのは明らかだ。
「そっか。わかった。私は昨日のお礼が言いたかっただけだから。
とてもスリリングな夜をありがとう」
見開かれたその瞳に、私の冷静な顔が映りこんだ。
「ス、スリリングって、僕たちはただ食事をしただけじゃないか」
小刻みに震える薄い唇。ひっきりなしにめがねをかけ直す汚い爪。
あんなに素敵に見えていた永井が、小さく汚いどぶねずみに見える。
いや、犬か。病院の、犬。
「なんのために、私の裸の写真が必要だったの?」
不思議なくらい落ち着いている自分は、まるで誰かに操られているみたいだ。
何も怖いものがないからか。