「昨日、海東先生が外来で診た患者さんが、喘息の発作起こしちゃってさ」


喘息の発作なんて別に珍しくないけど、そんなに大変だったのかな、と思いながら、

私はもう一口ヨーグルトを口に放り込んだ。


「それが海東先生が着てた服に、花粉がついてたせいらしくて」


「へ~。匂いかなんかで発作がおきたの?」


「そうみたい。白衣を着てたからわからなかったけど、下に来てた私服にゆりの花粉がついてたらしくてね。

発作起こしてるのに海東先生が処置できないもんだから、救急外来に搬送だよ」


何かが、頭の中の信号をクリアにしていく。

関係がない、と思いながらも、なぜかいくつかの映像がコマ送りのように私の頭に現れた。

亮雅の父である海東。私への関心。ファミレスで彼と話をしたとき、なんと言っていた?

そうだ、お母さんは元気か、確かそう訊いてきたんだ。

お父さんではなく、お母さんに限定して。でも普通は、ご両親は元気かって訊くもんじゃないだろうか。


いったん静まっていた私の鼓動が、再び強いリズムを刻み始める。


「海東先生の外来って、午前中だよね?先生のことだから、9時ぴったりに始まったんでしょ?」


「ううん。それが昨日は何か用事があるとかで、遅れてきたんだよ。

しかも、ズボンの裾とかシャツの袖が汚れててね。

いつもきちんとしてるのに珍しいね、って皆で話してたんだけどね」


ばくばくと打ち付けられた心臓で、私の頭が熱くなる。


突拍子もない想像が私の心に浮かんで、慌てて否定した。


そう、これは偶然を勝手に結びつけた、ただの想像だ。

それなのに、なぜだろう。

こんなに不安な気持ちになるなんて。