突然亮雅との距離が縮まり、視界がいつもよりも高い位置になる。

この年になるまで、お姫様抱っこなんてされたことがない私は、

その体勢から逃れようと、じたばたと手足を動かした。


抵抗むなしくそのまま助手席に放り出されると、亮雅は車を発進させる。

無言の横顔。

一滴の雨水が短い亮雅の髪の毛を伝って、肩へとすべり落ちた。


街のネオンが、亮雅の顔を照らし出す。

綺麗に整った顔。ついさっき別れたばかりなのに、ずっと会っていなかった気がする。


そんな事をぼんやりと考えているうちに、家への道をたどるのかと思われた車は、すぐ近くの建物へと吸い込まれた。


「亮雅?ここどこ?」


いつの間に建物の中に入ったのか。

亮雅に気を取られていた私は、車が停車して初めてそれがマンションではないことに気づいた。


何も応えず助手席のドアを開けると、亮雅がさっきと同じように私を横抱きにする。


「亮雅!自分で歩けるから」


「うるさい。黙ってろ」


怒気を帯びたその声に、私の体がびくんとはねた。

これ以上怒らせたくない。

仲直りがしたかったのに、余計に怒らせたりして、ほんとどうしようもない。