「だめ?」


里佳子が心配そうに、私の顔を覗きこんできた。

私は、渋り顔で頷く。


まぁ、予想してたことだけどね。


「あの、藤崎さん。

患者さんが、処方はまだかって、受付で怒鳴ってるんですけど」


後輩の女の子が、私に困り顔で助けを求める。


「わかってる。なんとかするから。

急病の患者様の応対をしているので、もう少しお待ちくださいって伝えて。

ちゃんとあやまってね」


「はい」


当然、口からでまかせ。急患(急病の患者)がいて、ピッチに出れるかっツーの。

けど、ほんと、何とかしないと。


「井上先生にコールしてみる?」


「そだね」


私は再び受話器を持ち上げて、別の医師にコールする。


--無音。


すぐに受話器を置く。

もちろん、里佳子は、その意味をわかってる。


「まだ、出勤してないわけ?」


「うん。コール音がならない」


はぁ。


これだから、4月は嫌なんだ。