おやじ医師は、また別の集団にもぐりこんで、

得意の(?)ギャグをぶちかましては、笑いを取っているらしい。

あちこちから、あはは、という笑い声が響いた。


「おい、お前気分が悪くなったから、先に帰りますって言ってこい」


私にだけ聞こえるように、亮雅が低く囁く。


「え?なんで」


「なんでだぁ?いいから、言って来い!

俺が家まで送るって一緒に出るから、さっさとしろ」


わけもわからない命令に、私の頭は混乱する。


「で、でも」


別に、この場にいたいわけではないから、先に帰れるならその方が良いに決まっているが。

亮雅が私を送っていくなんて図、なんかまずくないだろうか。


私が躊躇していると、斜め向かいに座っていた脳外科の医師が、大声を上げた。


「なんだとっ!!わかった。すぐに行く」


盛り上がっていた場が、一瞬でしんと静まり返った。


急患。

しかも、脳外科の医者が呼ばれるってことは、多分救急車で運ばれるような重症者。


だれもが、その事を察して、しばらくは時が止まったようになった。