「まったく!ほんとふざけんなって感じ」


わざと聞こえる声で言うのは、話を聞いてほしいからだろう。


「どうしたんですか?大森さん」


大森は、4月に入ってきた新人看護師だ。

処方箋を取り違えるという重大なミスを、私が患者に平謝りでフォローしたことなど、

今ではすっかり忘れてしまった風な堂々たる態度だ。


「藤崎さん、ちょっと聞いてくれる?」


やはり相槌を打ってくれる相手を探していたと見えて、

大森は、私が声をかけると流れる滝のように一気に語り始めた。


「もう、ふざけた患者がいてさ。

どうしたんですか、って聞いても、あくびばっかりして人の話しをちっとも聞かないの」


「そうなんですか。今日はどうしていらっしゃったんです?」


「それが、耳がよく聞こえないとか何とか言っちゃってさ。

耳なら耳鼻科行けって感じなのにさ」


「あぁ、なるほど」


めまいや耳鳴りなどは、内科的疾患なのか、耳鼻科的疾患なのかすぐには判断がつかないことも多い。

看護師さんは、患者さんから症状を詳しく聞いて、どちらの科を優先すべきか判断することもある。


多分、今日の患者さんは、内科で受付したものの、大森は耳鼻科的だと考え患者を連れて行こうとしたのに、

その案内をよく理解してもらえなかったってことだろう。