いや、そんなことはありません、と言いながら、海東は診察室へと歩いていった。

一度だけ、私の方を振り返って。



・・なんだろう?亮雅の話だったよね?



ふと、数ヶ月前に救急外来の入り口ですれ違った事を思い出す。

医者同士の縄張り争いがあるのかもしれないけれど。



・・まさか、同居してることがばれた!?



同棲ではなく同居だなんて言ってみても、実態は同棲なんだろうけど。

当然、そのことは病院には秘密にしているわけで。


実を言うと、勘の良い里佳子にだけは、ばれてしまったんだよね。

その理由ってのが、二人の髪の毛から同じにおいがした、っていう、なんともマニアックというかなんというか、なもので。


とにかく、そういうことがないように、

シャンプーも私専用を買ってきて、別々の銘柄にしているくらいの気の使いようだから、

ばれないとは思うんだけど。

里佳子の口は、堅いし。


けど、それ以上の推測は不可能だった。

里佳子や他の子達が、受付と診察室を足早に往復している。

再び私は、大勢の患者が待つ私の戦場にもどって行った。