「あ、海東先生。おはようございます!」


必ず診察開始の10分前に現れる外来担当の医師は、この海東くらいだ。


「あぁ、おはよう」


白衣を着て、柔和に笑う海東が、私は大好きだ。

父と同じくらいの年齢の海東に、自分の父の姿を見ているのかもしれない。

残念ながら、私の父は、こんなにいい男ではないが。


海東の頭の白さを見て、ちょっとだけ父の事を思い出す。

もう10年近く会ってない父。

あの頃は、黒くてふさふさしていたが、ひょっとしたら、こんなふうに白い頭になっているのだろうか。


と、いつもならさっさと診察室に入っていく海東が、受付の見える場所に立ったまま、

何か物言いたげに、私の事をじっと見ている。


「あの・・何か?」


患者の対応の合間を縫って海東に声をかけた。

ひょっとして、カルテを出してほしいとか、何か用事があるのかもしれない。


「あ、ああ。その・・・」


いつも患者さんに聞き取りやすいようにと、ことさらゆっくりと話す海東だが、

何だが口ごもっているような気がするのは気のせいだろうか。