私の体が、ふわりと浮き上がったかと思うと、世界がぐるんと回って、

私は普段、見る機会もない、駅の天上を眺める羽目になった。


あ、天上って、こんな安っぽい感じなんだ。


って、ち・が・う!


「ちょ、ちょっと、下ろして下さい!!」


男は、私をお姫様みたいに抱き上げると、

無言のまま歩き出す。



うわっ、勘弁して!

そんなドラマみたいなこと!

しかも、こんな朝の満員御礼みたいな、駅のホームで。



「騒ぐと、落とすぞ」


男の発した、地に響く、重低音。


私を見下すような瞳の奥には、とてつもなく邪悪な光が宿ってて。



・・こいつ、本気だ。



初めて会ったばかりだというのに、私は本能で、それを悟った。


どうしよう。さっきの痴漢より、よほど危ないんじゃないの?