「私ね、夏夜は、彼氏を作るべきだと思うんだ」
言われ慣れた台詞なのに、なぜだか耳を傾ける気になった。
里佳子の顔が、沈んで見えたからかもしれないし、
私自身が、一人でいることに寂しさを覚え始めたからかもしれない。
26歳。
結婚は早いにしても、彼氏の一人くらいいてもいい年だ。
「夏夜はさ、すっごいいい子だと思うんだよ。
一途で思いやりがあって。
文句言ってても、患者さんには優しいし・・。
けどさ、なんとなく・・」
そこで、里佳子は言葉を切った。
言うべきかどうか逡巡しているように見える。
すでに、二人とも職員用の通用口まで来ていた。
ここからは、二人別々に帰ることになる。
夜風が冷たく、私はスプリングコートの胸元を押さえた。