「こんなトコで、何してんの?」



頭上から降ってくる声に。



こんな最悪な顔、絶対に見られたくない私は、顔を俯けて視線だけで見上げると。



黒い大きなカバンを肩から提げて、「あちーな」なんて言いながら、首もとのネクタイを緩めている由樹兄ちゃんがいた。




「由樹兄ちゃんこそ…、こんなトコで何してんの…?今日、平日でしょ?会社は?」



「ん?俺?俺は…まあ、ヤボ用?
あ、ちなみに今日は有給とって、会社休んだ」



私の質問にニッコリ笑って、半疑問形で答える彼。



藤川 由樹(フジカワ ヨシキ)23歳



私の家の隣の家に住む、3つ年上の幼なじみ。



ん?



正確には、だった……かな?



由樹兄ちゃんは去年の春、就職して家を出て一人暮らしを始めたから。



会うのは久しぶりだ。



有給とって会社休んだのに、何でスーツなの?



って、疑問が口から出かかったけど、必死に飲み込む私。