好きとか嫌いとか、
考えた事も無かった。
「居残り?」
「…え」
この人はいつから其処に居たんだろう。
蝉の鳴き声と部活生達の掛け声は、その人が教室に近付く足音や気配すら感じさせなかったのだ。
「日浦」
「………はい」
「居残りか、って聞いてんだけど。」
「……そーですけど」
ぶっきら棒な三上の問い掛けに対し、半ば投げ遣りな返答で対応する絢。
「ふーん…」
キョロキョロと教室内を一通り見渡しながら、三上の足はゆっくりと、それでも確実に綺に近付いていく。
彼の足音が段々と鮮明になると同時に、背中に緊張が走る。
プリントに向けた視線の端に、遂に三上を捉えた。
「遊び過ぎた…」
「違います」
ギシ。
机上に右手を付き、プリントを自分の方へ向けると、
「教えて下さい、って言えば教えてやるぞ?」
と、耳を疑う言葉が聞こえた。
「…………」
「何だよ…」
「…熱でもあるんですか?」
「ふざけんな」
訝しげな表情の綺とは違い、三上の笑顔にははどこか余裕すら感じる。
何でこの人は此処に居るんだろう、とか何しに来たんだろう、とか
色々考えたけど
窓を全開にしても逃げない熱気の中じゃ、纏まる考えも纏まらなかった。
ただ、それ以上に気を散らす事の切っ掛けがある。