叶野の目の前に

ふてぶてしく座ってるのは

叶野の子、といっても

実は兄貴の子だった。


親父が他界して

工場を閉鎖してから

兄が生活を支え、

学費まで出してくれた。


その兄も無理が祟って

親父と同じ病に倒れ死んだ。


母も後を追うように

亡くなった。


引き取り手のない兄の子を

ここまで育てたのは

苦労して自分を支えた兄への

たった一つの恩返しだった。


この世界に入れたくなかったが

自分の生い立ちを恨み

どうしようもなく荒んだ甥を

自分の子として可愛がってきた。


真っ当になれば

自分の設立したこの会社を

継がせてもいいと

内心では思っていた。