行きつけのバーで

俺の隣に座っている男

三つ揃いの黒いスーツを着て

長い髪をポニーテールに結ん
でいる

飲んでいるカクテルは

『皆殺しのウォッカ』

俺と目が合った男は

笑みを浮かべて

「59番目の死神」

だと名乗った

酔っ払いの戯言

そう思って

俺は、相手にしなかった

死神は勝手に話し続ける

「あと3日で、この世界は
終わる」

俺は、死神を見た

「でも、お前が命を差し出
せば、この世界は続く」

「いいよ。でも、条件があ
る」

「?」

「ただ、死ぬのではなくて
俺の存在を、最初からなか
ったことにしてくれ」

死神が俺を見つめる

「こんな俺でも、死んじゃ
えば、悲しむ人が少しはい
るんだ」

俺は、両親や妹夫婦

その子供たちのことを思っ


そして、数人の友達と

好きなあの娘のこと

まぁ…あの娘は

悲しまないかもしれないけ


「それはムリだな。この世
界は、お前を亡くした悲し
みで救われるのだから」

59番目の死神は

カクテルの代金を払い

軽く手を振って

バーを出ていった

あの夜から

3日たったけど

世界は

かわらず続いている

俺の代わりに誰かが…

だって、この世界は

こんなにも

悲しみにつつまれているの
だから