流浪の旅が長く続くにつれ、時にラエル人は、「主」の存在を否定し始めた。苦難の旅を強いられて、弱者である老人や子供達や病人たちが真っ先に、毎日のように一人二人と衰弱していっては、死んで行く者が続出した。

悲しみに暮れる遺族たちは、次第に「主」を信じられなくなってきた。「主」は常に民たちのそばにいて、見守って下さる。

いかなる環境下でも、過酷な条件に陥っても耐え忍ぶこと、あきらめないこと、そして生きることを試しているようだ。

 ラエル人は、遊牧民のマク人と出会った。それは戦わなければ、前に進めないということだ。マク人の祖先は、ヤブーの兄エウである。

同じ民族ではあるが、数百年以上も経てばもう赤の他人。他民族の血筋と交われば、血も薄くなる。ましてマク人は、もう「主」を信じてはいなかった。他の民族の宗教、神たちを崇拝していた。

 モズは戦に参加する、勇気ある者を募った。シュア(ゼフの次男イムの子孫)を隊長として選んだ。シュアは、承諾した。

夕方、モズは丘の上で杖を振り回し続けて応援した。シュア軍は、馬を駆って勇み進めた。砂埃が舞っている。

 沈み行く太陽を背にして、マク人に向かって戦いを挑んだ。追い風の強風が、吹き上げた。

砂埃が舞い上がり、マク人たちの目を痛めた。しかも、シュアの背後には夕陽がある。マク人にとって、その夕陽は真正面だ。

「光あれ」

マク人たちは、逆光によってシュアたちが見えない。そのスキに乗じてシュア軍は、剣を振りかざすのであった。勝利に明け暮れ、酔いしれた。それ以来シュアは、モズの後継者として任命された。

「私は、マクの記憶を天の下から完全にぬぐい去る(出エジプト記)」

 一行は三カ月後に、シナン山の麓を訪れた。二万人もいた民たちは、五千人しか残っていない。

信仰を疑い途中で離脱する者、エジプトに戻って奴隷になる者、病に倒れて帰らない命となった者、戦いで命を失った者たちなど大勢いた。

 モズの助言者として、新たに三人の神官が選ばれた。古からのしきたりである。「主」の言葉を伝えるにしても、モズ一人で判断し行動するには、人一倍の勇気を必要としていたようだ。モズももう、判断力、決断力、行動力など自信を失っていた。