それに伴い、モズたちの目の前にある湖水が、突然引き出し始めた。水深二メートル。瞬く間に、湖の底が見えた。島の沈没によって、大量の湖水が地中海へ流れ出したのだ。

 ラエル人は、「主」が行った奇跡に目を疑ったことであろう。幸いにもその時間は、引き潮と重なっていた。

対岸まで一00メートル。モズは急いで、二万人を泥の湖の底を渡らせた。荷車は、役に立たない。家財道具を捨てさせた。

湖水はすぐ満ちてくる。追っては、すぐそばまできている。急がねばならない。大半は渡り終えたが、まだ歩み進んでいる者たちが大勢いる。

 火山弾の雨が止み、軍隊は湖岸までたどり着いた。追いつかれる。モズは、老若男女、病人怪我人を問わず無我夢中で走らせた。

湖の水は次第に満ちてきた。このままでは民たちまでが、波に呑みこまれてしまう。走れ。けが人も、年寄りも走れ。食料までも捨てさせた。

 しかし、湖水の満ちる勢いは激しかった。瞬時にして荒ぶる大波は、残された数千人の民と軍隊をさらってしまうのであった。犠牲者が出た。

モズやラエル人は、落胆に暮れた。それでも生き残った民たちは、「主」のその奇跡を信じるようになったようだ。