その地中海に浮かぶ火山島が、とうとう大爆発を始めた。昼には、黒い噴煙を天空まで上げた。

夜には、溶岩を噴出させては激しく海へと流れているのが、エジプトから見えた。それは幸いにも、昼夜を問わず行く先々の目印・墓標となった。

 ラエル人は、地中海沿岸のコースをたどるのを止めた。行く手には、パレス人が立ちはだかっているからだ。

彼らはエジプト人と同盟を結んでいた。襲われる確率は高い。ラエル人は奴隷であり、戦士としての能力を備えてはいない。

肉体は多少鍛練していても、戦い方を知らない。まともに戦っても、全員殺されるだけだ。

 ラエル人は、葦(イネ科の多年草)が生茂る大きな湖で足を休めた。淡水湖(塩分濃度が、一ℓ中0.五g以下の湖)とは言うものの、地中海とはつながっていた。

 背後から、国王の軍隊が押し寄せてきている、という報せを受けた。国王の報復だ。モズたちに追いつくのは、時間の問題だ。

二万人の民を従えて、体力もない、戦い方も知らない、武器もない、こんな状態では戦うことはできない。

それでもモズは、じっと時を待った。地中海に浮かぶ島、噴煙を上げている島の方角に黙って目を向けていた。

 ラエル人はうろたえ、不安に襲われた。この湖の前で足止めをくらい、エジプトの兵士にこのまま黙って殺されてしまうのか。

皆、モズにだまされたと、思ったことであろう。民たちの、その怒りは今にもモズに攻撃しかけようとしていた。

 火山島の噴火が激しさを増した。山の頂きが吹き飛んで、平坦な高台となり果てた。黒雲が立ちこめ、昼間なのに周囲は暗くなった。

火山弾が、数百キロメートル先の遠いエジプトにまで飛んできた。火山弾は、幸いにも軍隊の進行を阻むかのように降り注いだ。

 噴火は、単なる爆発だけでは終わらなかった。島全体が短時間で、崩壊してしまった。海底に大きな陥没が生じ、火山島全体が没した。

巨大な渦を巻きながら、海中に沈んでしまったのだ。渦も一緒になって、その陥没に引き込まれた。周りの海水が、大量に引いた。