ラムセス二世は、モズの要求を拒み続けた。さらに過酷な労働を、ラエル人に強いた。モズの余計な行動によって、ラエル人は反感を抱くようになった。

また奴隷慣れしているため、急に砂漠のど真ん中に放り出されても不安を感じていた。二万人ものラエル人を、どこに連れていくつもりなのか。

食料も水も足りるはずがない。そんな灼熱の砂漠の中を渡り歩いても、多くの犠牲者が出るはずだ。モズの信頼は、得られることはなかった。

 それでもモズは「主」の言葉を信じ、災いをエジプトに起こした。季節外れの暑い日が続き、「赤潮」がナイル川を真っ赤に染めた。

赤潮とは、富栄養化によりプランクトン(波に漂って生活する動植物)が大量発生し、赤褐色に変わる現象のことである。

酸素が不足して魚たちは死に絶え、その腐敗臭が漂った。また追い打ちをかけるように、上流から赤い土が流れ込んできた。酸化した赤い鉄、つまりサビを多く含んでいた。

 モズは、気象学に熟知していた。一一年周期で訪れる太陽の黒点も、増幅する時期だった。紫外線が強く、日焼けが気になった。夜空には美しい光のカーテン、オーロラが見えることもあった。

 カエルが繁殖した。暖かい時期が続いたためか、オタマジャクシの成長が早かったようだ。イナゴの大群が農地を襲った。

西で育った昆虫たちが、逃げるようにしてこのエジプトの大地を通り過ぎては、東へと去って行った。

地中海の水温が近年になく、暖かい。天変地異の前触れであろうか。昆虫たちは、その異変をすでに察知していたのだ。

 モズは、その原因を知っていた。上空には厚い黒雲が覆った。それは地中海にある火山島が、噴火したからなのだ。

モズは、ノエルが方舟で漂流していた時、すでにその火山島のことは言い伝えで聞いていた。