モズは下山し、家族と一時の別れを惜しんだ。モズは、二月のまだ肌寒い季節にエジプトに到着した。

モズは母ヨーケ、兄アム、姉アンと抱き合った。宮殿では養母ケイトとも会い、敵対するラムセス二世とも再会した。

モズは国王に向かって、ラエル人全員をエジプトから去らせることを、要求した。この時モズは、風邪気味だった。

「私の民を去らせて、荒れ野で私のために祭りを行わせなさい(出エジプト記)」

 口下手なモズは兄アムを伴い、真向から対決した。モズは杖を使い、それを毒のない蛇に変えた。

ラムセス二世もケイトも側近たちも、驚嘆した。細長く伸びたゴムの棒の中に、蛇を仕込んでいただけだ。

いや、エジプト人たちもまた、そんな秘術は知っていたようだ。そんな単純なマジックに、そう簡単にはだまされない。

「川からくんできた水は、地面で血に変わるであろう(出エジプト記)」

 モズは、瓢箪の中に入れた「黒い水」を、ナイル川の水面に注いだ。火打ち石でその場で引火させ、燃え上がる炎を見せつけた。国王たちは、恐れおののいた。

 私はその容器が、ウリ科の瓢箪だと聞かされた。瓢箪の内部には微細な穴があり、水が浸透することで外側から放熱している。

その穴から気化熱(液体から気体にかわること)が奪われ、冷却状態を保つことができるようだ。

 容量は少ないが、いつでも冷たい水が飲めた。引火しやすい「黒い水」を持参するには多少危険だが、他に適した容器はなかった。

アフリカやアジアの熱帯地方が、原産らしい。きっとモズは、その地方の行商人から買い取ったのであろう。