ゼフの次男イムは、学問を志し生物科学に貢献した。特に「薬草」の研究をしていた。口先が達者で理論武装家でもあり、その弁舌には説得力があった。

だれもが、反論することはできなかった。イムがもたらした知恵と才覚、教養の深さ。イムは知識よりも、創造力を重視した教育改革を施した。

「創造力は、知識より優る(アインシュタイン)」

「真の知識は、経験あるのみ(ゲーテ)」

 だが、国王バパの顧問として仕えるイムといえども、平穏な日々はそう長くは続かなかった。この土地を支配しているのは、エジプト人であってラエル人ではない。

ラエル人たちから多くの科学者や政治家や商売人が輩出されるたびに、エジプト人に疎まれ始めた。

 一二士族のうち特にイムはなぜか、国王バパの末っ子、バール将軍に嫌われ、執拗に命をねらわれた。バパの後を、長男のパダが王位を継いだ。イムを暗殺するため、兄弟揃ってその研究している毒草をねらっていたようだ。

 ある日イムは、バール将軍のワナにはまり、国家の反逆罪に問われて監獄に入れられた。時期同じくして、イムの研究室から花や草木から抽出した薬物などが盗まれた。

犯人は、物好きな花泥棒だとバール将軍は断定し、それ以上の捜査はしなかった。真犯人はきっと、バール将軍の部下であろう。

 イムはこの時、国王パダのワインの毒味役をさせられた。それは囚人としての職務であった。その職務を利用して、イムはバール将軍のワナに陥ってしまった。

皮肉にもイムは、自分で調合した毒の入ったワインを飲まされ、死に至ってしまった。父イムは、もがき苦しみながらこの世を去ってしまった。