寒冷地に行くと、マイナス一0度の時に、水蒸気が昇華してできる微細な氷の結晶がキラキラと輝いて、空中を漂う現象が見られる。

「ダイヤモンドダスト(氷霧)」だ。体内の水分が結晶のごとく凍れば、その肉の鮮度は良好な状態で保存される。

細胞膜が破壊されることなく、凍結保存される。胃の中に入った食べ物は消化されずに、分解されることなく、マンモスは絶命したことであろう。

 けれども、太陽と銀河の引力によって、その磁極の反転は数日で正常に回復した。
 一九八三年、南極にあるロシアのボストーク基地で観測された最低気温は、マイナス八九.二度であった。

そんな環境下の中でも、一瞬にして人体が瞬間凍結することはない。すぐに凍死はしても、長い時間をかけなければ完全凍結はしない。私は、「アカシック・レコード」の波長とまた合致(がっち)して、そんな未来の夢を見てしまった。

 私は海の上を、陸地を求めて航海を続けた。厚い黒雲が天を覆いつくしている。夜になっても、星は見えない。私の位置が全くつかめない。まさしく漂流である。
「光あれ」

例え天空を、昼夜を問わず黒雲で覆われていても、陽が昇れば昼と夜の区別は分かる。陽が昇れば、それは朝があるということだ。朝日のあるところ、東なり。

 私は東を目指した。ハトを飛ばしてみせたが、すぐに戻ってきた。陸地がないという証であろう。長き海原をさまよっていると、左右両側に岩場が見えた。遠方ではあるが、かろうじて見えた。うわさに聞いた、「ジブラルタル海峡」だと推測した。

私は「地中海」に入ったのだ。このまま進路を東へ進めば、いずれは平坦な陸地にたどりつけるはずだ。一抹の期待感に、心が躍らされた。