相当、長い距離を北の方角に流されたようだ。一0隻の船が脱出したはすだ。みんなは、どこへ行ったのであろうか。

高波に呑み込まれて、沈没したかもしれない。西や東にある大陸に、逃れたことを願うだけである。新しい大陸で、生き延びてくれ。

 私にとっては、とてつもない天変地異であり巨大な高波ではあったが、後世の人々はそれを「洪水」と呼び、私の船のことを「方舟」と呼ぶであろう。

 島に残された国王や住人たちは、当然、死に絶えたはずだ。神官たちの予言、「主」の御心を信じなかった天罰である。

 私の故郷であるあの島は、海のもくずとなり一夜にして消え失せた。今まで培われてきた文明は失われ、滅んでいった。後世の人たちは、その島の名をきっと、「アトラス大陸」と呼ぶことであろう。

 私の船は、海流にのって東に向かっているようだ。舵が壊れて、修復するのに時間はかかる。必要な木材は、どこかの部分を外して、調達する以外に方法はない。

数カ月以上も漂流している。どこへ向かおうとしているのか。「主」よ、私たちを導きたまえ。

 南極の極地、寒冷地帯に激突した隕石は、氷河を崩壊させた。それは海面を上昇させた。

世界の陸地の海抜は、以前よりも六0メートル以上も増水したようだ。 南極大陸の地表面は吹き飛び、クレーターは半径一000キロメートルの広範囲にわたった。

 上空にまで舞い上がった粉塵が、天空を覆った。それは地球の全土の表面を覆い尽くした。急激な寒さが襲ったが、船の位置は赤道付近だったので、雪にはならず雨が幾日も続いた。

それも土混じりの黒く濁った雨だ。違う、船が赤道に近いのではなく、赤道が船に近づいたのだ。