「トウマ君！！もう辞めて…」

マリコはこのケンカを止めようと思い、トウマに駆け寄ろうとした。だが、誰かの腕がマリコの肩を抑え、マリコを静止させた。

「止めるなマリコ…これはトウマのケンカだ」

「えっ！？…何でここに居るの？」

マリコの肩を押さえているのは、他の誰でもない…ハヤトだった。

「昨日電話で、県境まで用事があって来るって言っただろ？」

「でっでも、忙しくてこっちまで来ないって…昨日…」

マリコはヒサジぶりに会ったハヤトに驚いていた。髪が少し伸びたぐらいで夏に会った時とはほとんど変わっていない…。でも、恋い焦がれていた相手に久しぶりに会ったというだけで、いつもの様に話せないでいたのだ。

「話は後だ…今はトウマが男を見せているんだからな。」

ハヤトはトウマの方を見ると、軽い笑顔を浮かべ、顔で方向を差した。

「えっ…と。そうだった！トウマ君！！」

マリコはトウマの方を急いで窺うと、形勢が一転している事に気づいた。

加賀が地面に倒れ、トウマが顔から血を流しながらも、立ち上がっていたのだ。

「あの状態からどうやって…」

「合気だよ…それより、そろそろ決着が着きそうだぜ」

「へっ？」

ハヤトがそう言うと、トウマは何度か加賀を殴り、こう言った。

「降参しろ加賀…お前の負けだ」

「…解った。俺の負けだ……なんて言うと思ってんのか！！」

加賀は地面に転がっている石や砂を無作為に取り、トウマに投げつけた。咄嗟にガードしたトウマだったが、目には砂が、顔には小さな石による切り傷が無数についた。