礼儀を知らない俺だが、流石に元総理大臣の握手を拒否する訳にはいかない。

俺は一応、粗相のない様心がけながら、前田さんに挨拶をした。

前田さんは、そんな俺の様子を見ると、嬉しそうな表情でミツハルに話しかけていた。

「ちゃんと丁寧な挨拶が出来る良い青年じゃないかミツハル!どっかの誰かにも見習わせたいぐらいだよ」

「ほぉ。そいつは誰の事を言っているんだクソジジイ」

前田さんの発言を聞いた銀二は、食ってかかるようにソファーから立ちあがり、前田さんに食ってかかって行った。

「そんな事も解らんのか、お前の事だ銀二。今度挨拶の仕方を一からハヤト君に教えてもらえ」

前田さんは、そんな銀二の様子を気にもせず、サラッと毒舌を浴びせかけていた。見ているコッチがヒヤヒヤする。

「そうかそうか。よし解った…表に出ろクソジジイ!!」

銀二は、表面的には激怒しながら、前田さんに飛びかかって行ったが、ミツハルが必至に止めていた。

「銀二さん少し落ち着いて!今日は、こんな事するために集まった訳ではないでしょう…前田さんも笑ってないで、銀二さんをからかうのは辞めて下さい」

ミツハルも大変だな。ちょっとテレビで見ていた印象と違う前田さんは、これが本来の姿なんだと俺は思った。

テレビの奥に居た前田さんは、常に冷静な態度をとり、国民にはクールな笑顔で対応していた気がする。

その証拠に今の前田さんは、実に楽しそうだ。

「そうだな、済まないねハヤト君、見苦しい所を見せたよ。」

前田さんはそう言うと、俺をソファーがある所まで案内してくれた。俺は黙って、ソファーに腰を下ろす。

銀二はと言うと、怒りが収まったらしいが、少し釈然としない様子で、俺の隣にドカっと座った。

ミツハルと前田さんは俺の対面にあるソファーに座る。