そう、あの日も綺麗というよりは不気味な色の太陽がその身を隠しはじめた頃だった。平穏な日々はいつも唐突に崩れていくね。

ガシャン、バリン、バラバラ。

玄関の方から聞えてきた破壊音に、全身が震えた。それは目の前で食事をとっていたお父さん達も同じのようで、緊張が走る。

「……やはり此処も、か」

その無機質な声は、家族を悲しくさせた。

「お前達はここで待っていなさい」

お父さんは私の頭をひと撫でし、椅子に掛けていた白衣に袖を通しながら玄関へと向かって行った。これは以前にも見た光景。

「この村から出て行けえ!」

奥の間にいても聞えてくる声に、再び身体が震える。そんな私をそっと抱き締めてくれるお母さんの腕も、微かに震えていた。

「紫乃に何をしたんや!」

(え?)

紫乃、という名前に心臓が大きく拍動する。
聞き間違いなんかじゃない。確かに〝紫乃〟って聞えた。

「――っ、」

私はお母さんの腕の中からやや強引に抜け出し、慌てて玄関へと続く廊下を走った。その先にあるものは絶望でしかないのに。

「紫乃は、紫乃は、生まれつき言葉がうまく喋れんかったんや!挙動だって普通とは言えれんかった!それやのに…!」

ガラスの割れる音や物が倒れる音が絶え間なく鼓膜を揺らす。けれど、その音が私の耳に正しく入って来ることはなかった。

「妻は喜んどったけど俺は騙されやせんぞ!この目で見たんや!アンタの娘が怪しげな行動を紫乃にしよったところを!」
「っ、それは……」

お父さんが言葉を詰まらせる。

その間にも容赦なく浴びせられる罵声は止まることを知らない。紫乃ちゃんのお父さんの他にも沢山の村人が来ているらしい。

私は間違っていたのだろうか。よかれと思ってやったことだった。彼女を助けたいと思う一心でやったことだった。でも、治し過ぎてしまったの?本来ならば喜ぶべきことではないの?違うのかな?

私の行動は、能力(ちから)は、彼女を苦しめていただけ?