「可奈、どうしたん?」

怜くんの宣言をまだ知らない亜矢が、私と理恵の元へ帰って来る。

私は、こんな時にも嫌な感情を胸に抱いていた。きっと怜君くんは、亜矢に気持ちを伝えに行ったんだと思う。怜くんは私のことを好きだと言ってくれた。それに嘘はないだろう。

けれど、彼が本当に好きなのは亜矢だ。あの時から何一つ変わらない、真っ直ぐな瞳で捕えていた女の子は他でもない亜矢。

結局私は、誰からも本気で愛しては貰えなかった。でも仕方ないよね。だって自分自身を愛することが出来ないんだもの。それなのに、愛して貰おうなんて烏滸(おこ)がましい。身勝手過ぎる。

「……可奈?」

眉間に皺を寄せ、左手首を握る亜矢の癖。まだ治ってないんだね。



数分前、私は、残酷な言葉を吐いた。

怜くんに見放されても仕方がないような、友達に向けて言うことではない言葉を。けれど、怜くんは私を見放しはしなかった。最後まで私の彼氏で居てくれた。

そして亜矢は、そんな私の心配をしてくれている。あの言葉を聞いてなかったとしても、亜矢にとって私は好きな人を奪った憎い相手なのに。本当に、どうしてこんなにも二人は優しいのだろう。

亜矢がリストカットをする理由、考えたこともなかった。それどころか勝手に怒りさえ覚えていた。憎悪、蔑み、妬み。

何だって出来るくせに、死にたがるなんて何サマなの?って。

でも、今なら解る気がする。だからこそ、自分がどれほど愚かだったのかを思い知らされた。最低だ、私。

本当に大切なものは、極限にならないと解らない。それを初めて理解した。ねえ、神様。本当に死ぬべき人間は他でもない私だね。

けれど、それすら出来ない自分。人に死ねと言っておきながら、好きな人が死ぬと言っているのに自分の命が惜しい。挙手出来ない。

「亜矢、怜くんが立候補した…」

頭の良い亜矢ならこれだけで恐らくは理解できるだろう。亜矢は、亜矢ならどうするのかな。私と同じ?それとも別の答えを出すの?

ねえ、教えてよ。