そんな運命的な出来事があった日を境に、私の目は自然と桂木くんを追うようになっていた。もともと惚れっぽく、少ししか居ないクラスメイトの男の子たちのなかで、今まで好きにならなかったことが不思議なぐらい。最初はこの〝恋〟に舞い上がってた。

けれど、幸せなんて長続きはしない。気付いてしまったから。桂木君の視線の先の人物に。私がね、無意識に桂木くんを目で追うように桂木くんもまた一人の女の子を目で追っていた。――高槻 亜矢。

ねえ、どうして?どうして亜矢は何もかもを奪っていくの?いつだってそう、私から大切なものを全部奪っていく。

違う、亜矢が悪いんじゃない。

(でも、でも、でも!)

溢れ出した醜い感情は止まることを知らない。そして止められない。前に私が好きだった男の子も、亜矢を好きだと言った。皆、最初は話しやすい私に寄って来るくせに、亜矢と仲良くなれたら手の平返し。私は亜矢の踏み台?ただの引き立て役?

ねえ、やっと〝私〟を見てくれた人を見つけたの。その人まで奪っていかないで。桂木くんだけは取らないで。

せっかく軽くなった心をまた重くしないで。二人が、しないでよ。

(ああ、最悪だ)

私、前から知ってた。亜矢も桂木くんを好きなことぐらい。二人がお似合いなことぐらい。全部、解ってたんだよ。

再び、心の中が黒く澱んでいく。もう、純粋でまっさらな、白い部分なんて見えないぐらいに。黒く、黒く、汚れていく。

そんな時、理恵から〝ある〟相談を受けた。

それは桂木くんが、どうやら亜矢を好きかもしれないというもの。二人は同じ部活に入っており、最近亜矢のことをよく聞かれるのだと。そのうち、告白の伝言を受けるのではないかと。そんな相談だった。これを私は、この上ないチャンスだと思った。

「私、桂木くんのことが好きなんよ。お願いやけん協力してくれん?」

理恵は一瞬だけ顔を強張らせ、首を縦に振った。

やっぱり私は汚い人間だ。でも、どうしても桂木くんだけは渡したくない。亜矢を騙し、桂木くんを騙し、理恵を利用した。