そして、
「奈…美っ」
 彼は私の名を呼んで、そのままこと切れた。
 私はその様を表情を変えぬまま、見届ける。
「…貴方は、やっぱり何も分かってなかったわね。最後まで」
 ゴトン、と血に塗れたナイフを地面に置く。
 私はただの肉の塊と化してしまった彼に、そう言葉を投げ掛けた。
「私も覚えていたのよ。出会った時からすでに…“貴方”だ、って。
以前の私を愛していながらも、恨んで手に掛けて殺めた…その人だと。
私はこうすることで、確かにその“恨みの枷”は外れたわ。
でも、それは決して終わりじゃないわ…終われないのよ」
 私は、そっと彼の唇に自分の唇を重ねてみる。
 触れた彼の唇は、すでに体温を失い、冷たくなっていた。
「だって、貴方が見て愛したのは、現在の“奈美”という私で、“かつての私”ではないから。
それは仕方のないこと、でもだからこそ私は、許せなかったの。
貴方なら分かるはずよ。以前の貴方も、その時代の貴方しか愛さなかった私が、許せなかったんだもの。
……そうでしょう?」