「オレは放火魔なんかじゃねー!」


少年が叫ぶ。


婆は、ゴミの山からスニーカーを取り出した。


初めて婆の家に来た時に、弟がはかされた趣味の悪いスニーカーだ。


放火の犯人がシャコ貝に挟まれて落としていった物だと婆が言っていた。


果たして、スニーカーは、少年の足にぴったりとはまった。


「おまえのじゃなっ」


「う……」

少年はうなだれた。



「3度も放火しよって……。このこけしぼうや!」


「なんだよ!こけしぼうやって!」


「おまえが、こけしみたいな顔してるからじゃ!」


「くそっ!」


言われてみると、少年は、こけしに少し似ていた。


色白で目が細く吊っている。


「くそっ!殺してやる!殺してやる!」

こけしぼうやは、手足をばたばたさせて言った。


婆は暴れる少年を軽がると抱えている。


「物騒なこと言うねぇ。このこけしぼうやが。口ばっかりで、人殺しする度胸なんて無いくせに」


婆が言う。


「くそっ!オレを怒らせるとどうなるかわかってんのか!?」



「威勢だけは良いチビじゃのぅ」


「オレは、二人殺したんだ!」


こけしぼうやは言った。


「おまえみたいなへたれこけしぼうやに、そんなこと出来るはずがないんじゃ」


「本当だぜ!」


「じゃあ、どうやって殺したんじゃ」


「ぼこぼこに殴って、火をつけて燃やしてやった」


こけしぼうやがそう言うと、婆の表情が固まった。



「……誰を殺したんじゃ?」


「そのへんにいるホームレスだよ!はははっ!」