小さな、そして静かな息遣いが狭い車内の空気を重くする。
どちらも声を発することができずに、ただ時間だけが過ぎてゆく。
1分が、1時間にも、それ以上にも感じられた。
ふいに、彼がこちらを向いた。
まっすぐに見つめる視線を感じる。
彼が、あたしを呼んだ。
雨に濡れるフロントガラスから、ゆっくりと、彼に視線を移す。
まっすぐにあたしを見つめる瞳と視線が絡まる。
その彼の瞳が、揺れた。
思わず、視線を逸らしてしまった。
『今まで、俺は溺れ過ぎていたし、本当に身勝手で最低だった。キミが俺を好きでいてくれて、それが永遠に続くってそんな夢みたいなことを思っていたんだ。』
彼から、ぽつぽつと、言葉が紡がれる。
『でも、俺はキミを苦しめていたんだよね。俺の身勝手な思いで。』
『キミを守ることもできないのに、本当に勝手だった。でも、俺は……』
そこで言葉が途切れた。
彼を見上げる。
彼は、泣いていた。