「見返す……といっても」

「でもとかだっての前によ、絵で賞でも何でも取ったら良くね? 描いた絵さ、親父さんに見せて感動させてやればいいじゃんか」


少し戸惑う様子を見せる大庭君に対し、あっけらかんと話す青野君。


「いや、賞は取ったこともある。だが父はそれを見ることもない」

「じゃあ見てくれるまで頑張ったらいい」



なんとなく、わかった。



お兄ちゃんには、こういうことがなかったのだ。

青野君みたいに気楽に話してくれる存在も。


それは予想でしかない、でもふたりを見ていてそう思う。



大庭君の表情を覆っていた雲が、少しずつ消えていく気がした。


「日下みたいに難しい話は出来ねぇけどさ。オレだって何もかも自由に陸上やってるわけじゃねぇよ? 親はいいから勉強していい仕事に就けって言うよ。

でもさ、やりてぇんだ。だって誰よりも速くハードル越えていく快感が忘れられないからな。もっと速くなりたいって思う。

だから親には絶対にインターハイで優勝してやるって宣言してるんだ。そうしたら大学も陸上で進ませてくれるのを条件に。

その為に毎日必死で走ってる、筋トレもしてる。わがままにやりたいからこそ、その分努力してる」