「なんだよ、やりたいごとぐらいやったらいいじゃんか」

驚いた顔をしつつも、青野君はさらりと答える。

「そう簡単にいかないさ。ずっと……反対されている」

その言葉に半ば諦め気味な笑みを浮かべながら、大庭君は呟いた。


「お前に絵の才能なんかない。そんなことに現(うつつ)を抜かすな。絵で食っていけるなど幻想を抱くな。いいからお前は私の研究を引き継げ……全部父親の口癖だ」


寂しそうに、何かを思い出すように。



親からの期待に押し潰されそうになっていた大庭君。

いつも学校では辛そうな顔を見せたことがなかった、何かに悩んでいるようには見えなかった。

それでも、彼にも苦悩はあった。



ひとは、決して表層では計れない。


みんなの言葉が、ふとそんなことに気づかせてくれる。



じゃあ。



お兄ちゃんも、そうなのだろうか。



「じゃあさ、見返してやりゃいいじゃねぇか」


青野君の淀みのない声が教室に響いた。

顔を見ればまるで「何か問題があるのか?」とでも言いたそう。