「いやだってさ、オレなんてしょっちゅう落ちこぼれてっからな。それに比べたら何でも出来て、いつもしっかりしてる大庭はすげぇな、って」
続いた青野君の言葉は、本当に羨ましそうで。
今度は言われた大庭君の頬が、ほんのり上気しているように見えた。
「だが僕は別に」
「あ、確かにさっきの大庭の話聞いてて、それは勝手なオレの理想だったんだな、とは思ったよ。だけどさ、やっぱりそれでもそう思うんだ」
「……それならば、僕は青野の方が羨ましい」
どうしたんだろう。
さっきまではみんなの間に距離があると思っていた。
だけどどうしてか、今はその距離を感じることがない。
ひとりが言葉を紡いで、自分の気持ちを話したら。
みんな、気持ちを紡ぎ出している。
「え、オレ?」
「青野は自分の夢に向かって馬鹿正直に頑張っているだろう。僕は……やりたいことをやっていないからな」
今まできっとほとんど口にしたことのないような気持ち。
だけどそれらはとても心地のよい空気を生みだし。
無機質で、何もない教室を、私たちの空間へと作り変えてくれる。