彼の中学までの成績は知らないけれど。

努力して、努力して。

やっと手に入れた舞台に辿り着いたのに、思うようにいかなかったのは、きっとすごく悔しいんだろうな、と思ったから。


県一番でもすごいとは思う。

でももっと上を目指していた彼の葛藤が、なんとなくその表情に見えた。


思い出すだけで、悔しそう。

だけど私の視線に気づいたのか、ふっと顔の力を抜いて、笑ってくれた。



「え、で何、皐次郎は弥八子に憧れてたって?」

「ばっ……何言ってんだよ!」


ところが日下さんが愉しそうに笑いながらそう言ったものだから、再び彼の顔が真っ赤になってしまった。

その様子がおかしくて、つい私の口から笑い声が零れてしまう。


「乾も笑うなよ……もう正直に言うけどさ、オレはどっちかっつーと大庭の方が羨ましいよ」


溜め息混じりに頭をがしがし掻いて、青野君が出した名前は大庭君だった。

意外な人物の名だったのか、日下さんが目を丸くして大庭君を見ている。


名前を挙げられた本人でさえ、意外そうな顔をして青野君の方を見ていた。