「何動揺してんのよ」

「な、オレは何もやましいことはねぇからな!」


そう言い合っていると大庭君がわかりやすいように溜め息をつく。


やましいこと。

それが何を指すのか、暗に私に対して言っていたのかわからないけれど。

不思議と彼の言葉に胸が痛むことはなかった。



「いや……確かにこの間の大会でちょっと調子悪くてよ……落ち込んだりはしたけど、そんぐらいだし」

「あー、県代表だったのに、あれね」

「う……そうだよ。オレは一次も突破できなかったのに、永井は決勝まで残ったしさ」


横で相槌を打っていた日下さんが「皐次郎は110mハードル代表でね。永井ってのはあいつのライバルで100mの選手なの」と教えてくれる。


確かに陸上部のエースで、県代表になったとは聞いていた。

それを素直にすごいなぁと思っていたのだけれど、結果には満足いっていないらしい。


「県一番でもすごいと思うのに」と言ったら日下さんが「あいつ大学もスポーツ推薦狙ってるんだよ」と答えてくれる。


だからきっと大会である程度の結果を残したかったのだろう。

そう続けた日下さんの言葉に、私は返す言葉がなかった。