「……俺は、そんな性格羨ましいけどな」


不意に、後方から声が聞こえた。

振り返れば、背もたれに深くもたれて、天井を仰いでいた霧崎君。


“うらやましい”確かに彼はそう口にした。


「誰とでも同じように喋れて、みんなの調和を図ろうと気配りも出来て。いい奴だよな、日下って」


こちらを見ずに、ただ自分に言い聞かせるように。

霧崎君は落ち着いた声で言う。


「いい奴って褒め言葉じゃないと思うんだけどなー」

「あ……いや、悪い。嫌味じゃない」

「あはは、いいって。まさかそんな風に思われてるとは思わなくて、びっくりしたけど」


私もびっくりした。

それは内容に対してもだけれど、それ以上に霧崎君がそんなことを言ったことに対して。


この教室に閉じ込められて、初めて霧崎君とは話すきっかけが出来た。

だけどそれ以前は、彼はいつも無口で、ひとりでいることが多くて。

彼の口から彼の感情を聞くことはなかったから。


さっき霧崎君が私に「びっくりした……言えるんだな」と言ったときの想い。

それが今、私にある気がする。