いくら私たちふたりの話と言えど、他に音もない教室、どうしても話は聞こえてしまうもの。

だから聞いていたことに対しては何も思わないけれど、その一言はどうだろう。


「でも……」

「うん、確かにくだらないかも。男に振られてーって。でもさ、あたしにとっては重大な悩みだったんだよ」


思わず反論の言葉を口にしようとした私の声よりも。

明るさを失わない日下さんの声が教室に響いた。


その顔は大庭君のコメントに対する不快感とか怒りとかは微塵も感じられず。

「情けないよね」と照れ笑いを浮かべている。



昔、いじめられていた彼女は。

きっとひとの言葉をうまく吸収する術を見つけたんだな、と思ってしまった。



そう言われた大庭君も、別段彼女を言いくるめたいとか心底呆れた様子を見せるわけでもなく「そうか」とだけ呟いてペットボトルに口をつける。


なんだか、私だけまだまだ子どものような感覚に囚われた。


「でも関係ないかも。ごめんね、こんな話しちゃって、暗くなっちゃった」

私の隣で、日下さんが笑う。

可愛いその笑顔は努力して手に入れたものなのだろうか。