「小学生の頃の話だけど」

私はただ頷くことしか出来なかった。



「すんごい太ってたの、昔。しかもちょっと暗かったんだと思う。巴丸とかデブサカとか言われたりしてさ」

クリームパンを少しずつ頬張りながら、思い出すように彼女は言葉を紡ぐ。



「今思えば無視して突っぱねてれば良かったんだよね。でも当時のあたしったら真面目でさー、全部受け止めちゃって。そのうち学校に行きたくなくなっちゃって。

でもね、行きたくないなんて言えないじゃん? 親にバレちゃうもん。だから頑張って行ってた、なるべく誰の怒りにも触れないように、ひっそりと息してた」



そこでふう、と日下さんが溜め息をつく。


「ところがある日さ、お母さんがテレビ観ながら言ったんだよね『巴、最近無理してない?』って。

後から知ったんだけど、ちょうどそのとき子どものストレスに関するテレビ番組を観てたらしくて。それで何気なく聞いてみたんだって。

だけどそのときのあたしったらいじめられっ子だから。そのひとことに大泣きしちゃって。お母さんも目まんまるにして大慌てで」


私の顔を見て日下さんが自然ににこっと笑った。