「霧崎」
「あ、あのね……」
だからだろうか。
私は大庭君の声を遮るようにして言葉を発してしまった。
歪んだ表情も、少しの間も。
それらは霧崎君に思い当たる節がある、という証拠のような気がして。
でも私がそうだったように、ひとには言えない、言いたくないこともある。
それがわかってるから。
「屋上から落ちるときに……霧崎君を見たの」
“言いたくない”なら“言わなくていい”と思った。
「思い込みかもしれないけれど、目が合った気がして……」
私はどうせもう色んなことを吐き出している。
そんな私の言葉に、大庭君が眉を寄せながら「霧崎、本当か」と聞いていた。
「……ああ」
表情を変えないまま天を仰いだ霧崎君が、微かに頷く。
やっぱり、見てたんだね、記憶にあるんだね。