手も足も感覚を失ったような驚きに、めまいがした。


彩香


大野は冷たくなんかないよ?


強くて


頼もしくて


不器用だけど


口は悪いけど


あんなに


あんなに優しい人はいないよ?


大野をちゃんと、見てよ……


もっと大野を見てよ


わたしじゃダメなんだから


彩香じゃないとダメなんだから


叫び出しそうな気持ちをわたしは必死で閉じ込めた。


「斎藤くんってね……」


受話器から流れる、斎藤くんを褒める彩香の言葉にわたしは唇をきゅっと噛んだ。