名前モモ、口癖ドブス、職業あたしの恋猫。

まだ頭がぼうっとしているあたしに岡田が話を続けた。


「その魂は命みたいなもので、高嶋に……。ん?魂と命ってなにが違うんだ?同じか?……いや、とにかくな」


ポカンとしたあたしをチラッと見て口元に拳をあてた岡田が、ンゴッホンとわざとらしい咳をする。


「とにかく、モモの魂か命が高嶋に入ったから、モモの言葉が高嶋にだけわかるようになったんだ。まさに一心同体ってやつ?」


岡田が胸を張って得意そうにあたしを見た。


そうはっきり言われたらそんな感じもするけど。


あたしは前を向いたまま、詰まっているくせに勝手にどんどん流れてくる鼻水をズルルッと汚い音を出して強くすすった。


「なんで岡田にわかるの?」


「カンだな」


隣であたしの顔をのぞき込みながら、岡田がビッと人差し指を立てる。


「へえ……」


それからもあたし達はモモの話をあれこれ続けた。


まさかこんなに心の中にしまっていたことを、岡田に打ち明けるとは思っていなかったけど。


でもそれはきっとなっちゃんでも理解できない内容なのに、すんなり受け入れてくれたから。


夕方になって岡田を見送ったあと、あたしは一人で呟いた。


「……さすが岡田だ」


なんだか岡田ワールドに引きずり込まれたみたいだけど、あたしが岡田に救われたのは事実だった。


夏休みも終わって、だんだん涼しくなってきた頃。


あたしはたまにモモの夢を見るようになっていた。


いつもチョコンと座ってしっぽを動かしながら、なにを話しかけても無言であたしを見ているモモだけど、せめて夢の中だけでも会いたい。


でも目が覚めるたびにモモがいないという現実に切なくもなる。


そんなあたしは毎晩、モモがいなくなってもそのままの真っ白い座布団にまだモモの面影を映し出していた。


「どうか今日はモモと会えますように」


もう一週間くらい夢に出てきていないモモを想って、あたしはベッドの中で目を閉じた。


しばらくウトウトしていると、ぼんやりとなにかが浮かび上がってくる気配がする。


「……モモ?」


ハッとして起き上がると、あたしはもうベッドにはいなかった。


見覚えのある霧がかかったみたいに薄ぼんやりしたこの空間は。


間違いなくいつもモモと会える場所。


慌ててグリグリ目をこすってパッと前を向くと、薄い輪郭のモモがまっすぐあたしを見つめていた。


「モモ!お願い抱っこさせて!」


思わず日頃の願望が口から飛び出す。


「……ウザッ」


今まで座っているだけでなにも答えなかったモモが、ブルーの瞳をしかめて一言言い捨てた。


「えええっ!?喋れるの!?」


突然のことに、あたしは口をあんぐり開けたままめちゃくちゃ驚いた。


「……サイゴ、ダカラ」


「最後ってなに!?もう会えないってこと!?」


ビッと耳を伏せたモモがジロリとこっちをにらむ。


「ウルサイ」


おっ、怒られたっ。でもでもでもっ。


変わらない瞳の色、変わらないくつ下、変わらない冷たい態度、変わらない……。


……あたしのモモ!


「こうやってまた話せるなんて思ってなかったし、いつも一生懸命声をかけても通じてないって思ってたから、だから、嬉しいよおっ」


込み上げるたくさんの感情に、あたしはもう泣くしかなかった。


「ジカン、ナイ」


オイオイ泣き声を上げるあたしをモモが小さくさえぎる。


「……え?時間ないの?」


勝手に溢れてくる涙を吹き飛ばされるくらいショックな言葉だった。


「あっ、あのねっ、聞きたいことがいっぱいあるの!」


モモの体が少しずつ光り始めている気がして、焦ったあたしはジリジリ近付きながら知りたかったことを次々口に出し始める。