あきらめきれない思いでシャッターを押したり叩いたりしてみるが当然なんの返事もない。

「まさか閉まってるとはね、どうする碧?」

「どうするって言われても…ごめんねみんな、こんな遠いところまで付き合ってくれたのに空振りなんて」

「別にいいさ、たまにはこんな山奥の空気も気持ちいいしさ。なあ金沢」

「あ、ああ…その碧ちゃんが子供の頃に住んでたって言うあたりに行って見る?でももうダムになって水没しちゃったんだよね」

昨夜肇に聞いて初めて知ったのだが、川村沙耶達が住んでいた村落は7年前にダムが出来た事によりはるか彼方に水没してしまっていた。

「どうしよ…ダムなんか見てもなあ」

「だったら帰る?私はどっちでもいいけど…」

「碧、やっぱり一度観ておいた方がいいぞ。たとえ湖になってても、碧が生まれた場所には違いないんだ。周囲の景色とかは同じだろ」

和哉の言葉に碧は小さく頷いた。和哉も本当はもうこんな所帰りたいと思っていたが、それを口に出す前に正反対のことを言ってしまう。

正直碧には記憶を取り戻してほしくなかった。

和哉の知らない10年間…誰も知らない空白の時間が戻れば、碧は川村沙耶に戻ってしまいそうで和哉は恐怖さえ感じた。

再びレンタカーに乗り込んだ4人は肇が書いてくれた地図を頼りに更に山奥深くへと入った。ほぼ1車線の道が続き対向車がくる度に静香が苦労してかわす。

所々に退避ゾーンがあるのだがそれが無い場所では10メートル近くバックしなければ行けない所もあった。

やがて和哉の合図で車はガードレールの切れ目に頭を突っ込み停止する。

「ここからは徒歩だな。碧、大丈夫か?歩くぞ。紺野さんはどうする?車の中で待っててもいいけど」