そして県道の脇で事故に遭遇したのか大怪我をして倒れている10才の碧を発見したのである。

しかし判明しているのはこれだけ。

碧を連れ帰った肇は自分の病院でケガの手当てをした。

頭部に大きな傷と数ヶ所の骨折があったそうだが、肇自ら執刀したオペは見事成功し重傷だった碧は1週間後、奇跡的に意識を取り戻した。

碧の術後のケアと他の手術が重なっていた為、忙殺されていた肇は碧の意識が戻ってから慌てて警察に連絡した。

やがて警察官が数人来て包帯だらけの碧の写真を撮り県警に回したが、その様な行方不明者の届けは無いとの事だった。

両方のスネを骨折していたので車に跳ねられた可能性もあったが、事故現場から勝手に碧を連れて来てしまっているし、その間に何度か雨が降ったせいで道路には何の痕跡も残っていなかった。

『もしかしたら元々身寄りの無い子供だったか、それとも両親ともども何かの事件に巻き込まれた可能性がありますね。取り敢えず福祉施設に入居を要請しましたので週明けには担当者がこの子供を迎えに来ます』

若い警察官の事務的な言葉を聞いた碧は肇の白衣を握り締め怯えた様に震えた。

それを見た肇の口から自分でも意識しない内に自然と『この子は私が引き取ります。責任もって対処しますから施設の方は断っておいて下さい』

という言葉が発せられていた。