「ああ…散弾銃の弾だ」

オペに立ち会った夏美はその事を知っていたのか、ずっと視線を床に落したままだ。

碧と和哉はあまりの事実に衝撃を受け言葉を見失っていた。

「どうして…どうして私が鉄砲で撃たれなきゃいけないの?誰が?」

「頬は抉れ、額も削れていた。はっきり言って少女の元の顔が全くわからない。俺は骨格と記憶を頼りに組織の整形を開始した」

「記憶って何?…それとどうして熊野川で見つけたって嘘をついたの?。それに…それに私が発見されたのは、お兄ちゃんが修学旅行に行った5月だって…いったい何がどうしてそんな嘘をついたの?ねえ、どうして」

気持ちに高ぶりを抑えられず碧は思わず声を荒げた。

「すまない…。ただ碧には申し訳ないという気持ちしか表現できない。これは、家族で話し合って碧には言わないでおこうって事にしていたんだが、実は和哉には2歳違いの妹がいた」

「あなた!…」

夏美と和哉がはっとしたように顔を上げた。

「その子は4歳の時に俺の不注意で死なせてしまった…俺が…俺が殺したようなものだ」

当時を回想して肇の表情が苦痛に歪んだ。

あの日あの時、肇が目を離したばかりに、相手にしてもらえなかった碧は表に飛び出しトラックに巻き込まれた。

あの肇の袖を引っ張った時の碧の涙はなんだったのか、結局は分からずじまいである。
「あの涙はいったい…あの子は俺に何を言おうとしてたのか」

肇の瞳から大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。グラスを持つ手が小刻みに震える。

15年間一緒に暮らしてきて碧は肇のこんな感情的な一面をはじめて見たような気がした。